法人・個人事業者等に対する税務調査とは?流れと事前準備、未然に防ぐポイントを解説


法人・個人事業者等に対する税務調査とは?流れと事前準備、未然に防ぐポイントを解説
解説:税理士法人日本経営
税務調査は、法人や個人事業主が正しく納税しているかを確認し、不公平がないようにするための仕組みです。国税庁が実施する調査には任意調査と強制調査があり、売上や経費の確認を通じて適正な納税を促します。
しかし「事前通知の流れがわからない」「指摘事項への対応に不安がある」と感じる経営者や経理担当者は多いのではないでしょうか。
本記事では税務調査の基本から対象基準や指摘のポイント、具体的な対策まで網羅的に解説します。この記事を読めば、突然の税務調査にも慌てず対応できるよう、皆様の一助となれば幸いです。
税務調査とは?基本情報と目的の概要
税務調査は、法人や個人事業主を対象に、税務申告や納税が正しく行われているかを国税庁や税務署が法令に基づく権限による行政手続きです。調査の目的や種類、流れを把握することで、適切な対応や事前対策が可能となります。
税務調査の定義と目的
税務調査とは、税務署や国税局の調査官が法人や個人事業主の税務申告内容や納税状況を確認し、法令に基づいた適正な課税が行われているかを調べる一連の手続です。
日本の税制は「申告納税制度」を採用しており、納税者自身が所得や売上、経費を計算して申告・納税を行いますが、計算ミスや意図的な過少申告、不正な経理処理などが発生するリスクもあります。
そのため、税務調査は「公平な課税の実現」と「納税者の牽制」が主な目的です。調査によって誤りや不正が見つかった場合は、修正申告や追加納税、場合によってはペナルティが科されることもあります。
税務調査は法人・個人を問わず、すべての納税者が対象となり得ますが、特に好況業種・同業他社に比較して売上や所得に大きな変動があった場合、過去の申告内容に比して不審な点がある場合に実施されやすい傾向があります。
税務調査の種類(任意・強制)
税務調査にはどのような種類があるのか、調査ごとの特徴や違いを知っておくことが不可欠です。種類ごとの概要を以下の表で整理しました。
種類 | 説明 |
任意調査 | 納税者の同意のもと、事前通知や日程調整を経て行われる一般的な調査。 ほとんどの法人・個人事業主が対象となり、調査官が帳簿や請求書、通帳などを確認する。 |
強制調査 | 裁判所の令状に基づき、国税局査察部が実施する調査。悪質な脱税や不正が疑われる場合に実施。 事前通知なしで行われ、資料の押収やパソコンのデータ確認なども可能。 |
無予告調査 | 任意調査の一種で、証拠隠滅や改ざんの恐れがある場合に事前通知なく実施される。 飲食店や現金商売の企業などが対象となることが多い。 |
要点として、税務調査は大きく「任意調査」と「強制調査」に分けられます。任意調査は多くの法人・個人事業主が対象となる一般的な調査で、強制調査は悪質な脱税などが疑われる場合に限られます。
調査の種類によって対応方法や必要な準備が異なるため、違いを把握しておきましょう。
税務調査が必要とされる理由
法人や個人事業主が適切に申告・納税を行っていなければ、税負担の不公平が生じ、法の下での平等な課税が損なわれます。
税務調査は、帳簿や請求書、通帳などの会計資料をもとに、申告内容の正確性や経費計上の妥当性を確認し、必要に応じて修正申告や追加納税を促します。こうした調査が、納税者全体の意識向上や不正抑止にもつながっており、結果として国の税収を安定的に確保する役割も担っているのです。
【法人・個人別】税務調査の選定基準と違い
税務調査の対象となる個人事業主には、売上の急増や利益率の低さなど特定の傾向があります。調査確率は平均0.5~1%程度といわれていますが、申告内容や業種特性によってリスクが大きく変動します。
【個人事業主】税務調査の選定基準
個人事業主が税務調査対象となる主な基準は、売上動向や申告内容の不自然さに起因します。税務署では、業種別の平均所得率や消費税の課税基準を基に、疑わしいケースを重点的に選定しているようです。
以下のようなケースで、個人事業主を対象とする税務調査が行われやすいといわれています。
- 売上が急に伸びている
- 利益が少なすぎる
- 確定申告をしていない
- 売上高1,000万円にわずかに届かない
- 申告漏れが多い業種に属している
売上が急に伸びている
売上の増加が急激ある場合、税務署は「虚偽申告や売上除外」の可能性を疑います。特に現金取引が多い飲食業や美容業・いわゆるBtoCの業態等売上の全容把握が困難な業種では、帳簿と通帳の整合性が厳しくチェックされます。急成長するIT業界やフリーランスも調査対象となりやすいといわれており、請求書と入金記録の不一致が指摘されやすい傾向があります。
利益が少なすぎる
同業他社と比較して利益率が著しく低い場合、経費の過大計上や売上除外を疑われます。例えば売上1,000万円で経費900万円の場合、人件費や外注費の内容が厳密に審査されます。業界平均を大幅に下回る水準が続くと、調査対象とされる可能性が高まります。
確定申告をしていない
確定申告を怠ると「無申告者」として、調査確率が高まります。取引先が提出する法定調書から所得の発生が推認される場合、税務署は無申告所得を推計することができます。最大、過去5年分の取引を調査され、延滞税や無申告加算税が課されるリスクがあります。
売上高1,000万円にわずかに届かない
消費税課税事業者となることを回避するため、意図的に売上を調整していると判断されるケースです。950万円前後の売上が一定期間続くと、請求書の発行状況と実際の入金額が詳細に照合されます。現金売上の多い小売業やサービス業、例えば建設土木業のいわゆる一人親方などの外注先は、法定調書やその他の資料情報とのとの突合結果や預金の入出金状況が重点調査項目となります。
申告漏れが多い業種に属している場合
建設業(外注費計上ミス)や経営コンサルタント(架空経費)は、申告漏れ発生率が高いといわれています。過去の国税庁のデータでは、廃棄物処理業で1件あたり2,483万円、焼肉店で1,611万円の所得隠しが発覚したというものもありました。業種別でのリスクを理解し、帳簿と領収書の突合を徹底することが不可欠です。
【会社・法人】税務調査の選定基準
税務調査の対象となる法人には、特定の特徴が見られます。以下に、調査対象となりやすいといわれている項目をリストアップしました。
- 売上規模に対して利益率が極端に低い
- 頻繁に還付申告を行っている
- 海外取引が多く移転価格リスクが高い
売上規模に対して利益率が極端に低い
法人の売上高に対して利益率が著しく低い場合、税務署は売上除外や経費の過大計上を疑う可能性があります。特に、同業他社と比較して利益率が低い場合は、調査対象となるリスクが高まります。税務署は資料情報を活用し、異常値を検出して調査対象を選定しているようです。そのため、利益率が低い法人は、適切な理由や証拠を用意しておくことが重要です。
頻繁に還付申告を行っている場合
法人が頻繁に還付申告を行っている場合、税務署はその正当性を確認するために調査を行うことがあります。特に、還付金額が多額であったり、頻度が高い場合は、申告内容の正確性や適法性が問われる可能性があります。還付申告を行う際は、関連する書類や証拠を適切に保管し、説明できる体制を整えておくことが求められます。
海外取引が多く移転価格リスクが高い
海外取引が多い法人は、移転価格税制に関連するリスクが高まります。特に、関連会社間での取引価格が市場価格と乖離している場合、税務署は利益の移転を疑い、調査を行うことがあります。そのため、海外取引を行う法人は、移転価格に関する文書化や適切な価格設定を行い、税務調査に備える必要があります。
税務調査の確率
税務調査が行われる確率は、法人と個人事業主で異なります。以下に、国税庁が発表している令和4年度の統計データに基づく税務調査の確率をまとめました。
個人事業主に税務調査が入る確率は?
個人事業主に対する税務調査の確率は、国税庁が発表している「令和4事務度 所得税及び消費税調査等の状況」の消費税(個人事業者)の調査等の状況によると、2.42%です。これは、約41人に1人の割合で税務調査が行われていることを意味します。ただし、申告内容に不備や疑わしい点がある場合は、調査の対象となる可能性が高まります。
・令和4年分の所得税等、消費税及び贈与税の確定申告状況等について(令和5年5月 国税庁)
・令和4事務年度 所得税及び消費税調査等の状況(令和5年11月 国税庁)
会社・法人に税務調査が入る確率は?
法人に対する税務調査の確率は、国税庁が発表している「令和4事務年度 法人税等の調査事績の概要」によると、1.98%とされています。これは、約51社に1社の割合で税務調査が行われていることを示しています。特に、売上規模が大きい法人や、過去に不正が指摘された法人は、調査の対象となるリスクが高まります。
上記のように、令和4年度の税務調査の確率は、法人で1.98%、個人事業主で約2.42%とされています。ただし、申告内容や業種、過去の調査履歴などにより、調査対象となるリスクは変動します。適切な申告と帳簿管理を行い、税務調査に備えることが重要です。
・令和4事務年度 法人税等の申告(課税)事績の概要(令和5年11月 国税庁)
・令和4事務年度 法人税等の調査事績の概要(令和5年11月 国税庁)
【会社・法人】税務調査対象となりやすい業種
続いて、税務調査の対象となりやすい業種にはどのような特徴があるのか、具体的な業種とその理由を表でまとめました。
業種名 | 説明 |
飲食業 | 現金取引が多く、売上や給与の管理が複雑で申告漏れが発生しやすい業種だといわれている。 売上の記録や家族従業員の給与処理が不適切だと、指摘事項となることが多い。 |
美容業 | 現金商売が中心で、経費や売上の計上ミスが起こりやすい業種だといわれている。 記帳や経費計上の正確性が求められ、特に現金管理に注意が必要。 |
建設業 | 下請けや外注費の処理が多く、経費の過大計上や売上計上漏れが指摘されやすい業種だといわれている。現場ごとの管理が必要なため、帳簿や請求書の整合性が重視される。 |
IT業 | 外注費や経費の処理が複雑で、申告漏れや経費の否認が起こりやすい業種だといわれている。 業務委託契約書や納品物の保存が不十分だと、調査時に否認されるリスクがある。 |
廃棄物処理業 | 金属類の取引や現金収入が多く、不正発見割合が高い業種だといわれている。 |
医療・クリニック | 保険診療と自由診療の区分が複雑で、収入や経費の計上ミスが生じやすい業種だといわれている。 診療報酬や経費の計上方法が適切かどうか、帳簿や領収書で厳しく確認される。 |
不動産業 | 高額な取引や複数の収入源があるため、申告内容の整合性が求められる業種だといわれている。 |
ホステス・クラブ | 夜間営業や現金収入が多く、申告漏れや不正が多発しやすい業種だ といわれている。 |
太陽光発電 | 設備投資や減価償却、収入の変動が大きい業種だといわれている。 |
現金取引が多い業種や経費・売上の計上が複雑な業種は、税務調査の対象となる確率が高い傾向にあるようです。業種ごとの特徴を理解し、適切な帳簿管理や申告内容の整合性を保つようにしましょう。
法人と個人の税務調査の違い
法人と個人で税務調査の内容や調査の深さ、対象税目などにどのような違いがあるのか、主なポイントを表で比較しました。
項目 | 法人 | 個人事業主・フリーランス |
調査対象税目 | 法人税・消費税・源泉所得税・印紙税など複数税目が同時に調査されることが多い。 | 主に所得税が中心だが、売上1,000万円超なら消費税や源泉所得税・印紙税も調査対象となる。 |
調査の深さ | 資産や取引の規模が大きいため、パソコンや机の引き出しなど現物確認まで行われることも。 | 基本的には帳簿や領収書の確認が中心で、現物確認はあまり実施されていないとみられる。 |
立証責任 | 法人は業務関連性が推定されるため、否認時には税務署側が一定の立証責任を負う場合がある。 | 経費の業務関連性については納税者側の立証責任が強く求められるケースもある。 |
必要な準備 | 複数税目に対応した帳簿、請求書、通帳、元帳など多岐にわたる書類の整備が求められる。 | 所得税に関する帳簿や領収書、経費の根拠資料などの準備が中心となる。 |
指摘事項の傾向 | 高額な役員報酬や接待費、海外取引、消費税還付などが指摘されやすい傾向にある。 | 経費の過大計上や売上計上漏れ、複数収入源の申告漏れなどが多い傾向にある。 |
事前通知 ・流れ | 調査前に事前通知があり、日程調整後に実地調査が行われる。 | 基本的に事前通知があり、日程調整後に調査が行われるが、無予告調査もまれに実施される。 |
法人と個人の税務調査は、対象税目や調査の深さ、立証責任などに違いがあります。法人は調査範囲が広く、個人は経費の証明責任が重くなる傾向があるため、それぞれの特徴を理解し、適切な対策を講じることが大切です。
税務調査の流れと一般的な日程
税務調査は、事前通知から実地調査、結果通知までを含めて約1〜3ヶ月を要することが一般的です。
調査自体は、主に10時開始・17時終了など、1日調査が基本です。しかし、大企業への税務調査では複数日に及ぶケースもあり、適切な準備が求められるため、この章では、税務調査の流れの一例を紹介します。
税務署からの事前通知
税務署から電話または書面で事前に通知があります。
調査日時・対象税目・期間・必要書類が通知され、税理士が代理の場合は税理士経由で連絡されます。悪質な脱税嫌疑がある場合や証拠隠滅の恐れがある場合を除き、原則として突然の調査(無予告調査)は行われません。
事前通知を受けたら、直近3期分の帳簿類を整理し、税理士と対策を協議するようにしましょう。
調査を実施する日程の調整
通知後は速やかに税務署へ日程調整の返答を行う必要があり、目安としては数営業日以内の対応が推奨されます。
調査官が提案する候補日から、経理担当者の予定や税理士の立会い可能日を考慮して決定します。繁忙期を避けるため、決算月や年末調整時期の調整が可能で、業務繁忙期など正当な理由がある場合、一定程度の延期が認められることもあるようです。
ただし「資料作成中」などの曖昧な理由では拒否できないものとされていますので、正当な業務都合を明確に伝えるようにしましょう。
必要書類を揃える
調査対象期間の会計資料を体系的に整理し、ぜひ以下の表を参考に不足書類がないか確認してください。電子帳簿の場合は、PDFや会計ソフト・クラウドシステムの検索機能を整備し、調査官の要求に即座に対応できるようにしておきましょう。
書類分類 | 主な内容 |
申告関係 | 法人税申告書・消費税申告書・源泉所得税納付書 |
帳簿類 | 総勘定元帳・現金出納帳・売掛帳/買掛帳 |
証憑書類 | 請求書・領収書・契約書・納品書 |
資産関係 | 固定資産台帳・賃貸契約書・保険証券 |
預金関係 | 過去3年分の預金通帳コピー・当座勘定照合表 |
給与関係 | 給与台帳・源泉徴収簿・扶養控除申告書 |
準備すべき書類は税目や業種によって異なりますが、原則として税務署から通知を受けた期間(過去3事業年度分のケースが多いようです)のものを整備します。電子データの場合はタグ付けを徹底し、検索時間を短縮することが調査官への印象を良くするポイントです。
必要書類の詳細は、次章で解説します。
調査当日(午前中10時から午後5時まで※)
調査官が10時到着後、午前中は事業内容や取引先のヒアリングを中心に行います。経営者の趣味や家族構成など雑談交じりの質問で緊張をほぐしつつ、売上計上方法や経費の実態を探ります。
午後は預金通帳と帳簿の照合、請求書の連番チェック、在庫の実地確認など実務的な検証が行われ、17時前後に終了の挨拶があります。
※実施時間に関しては一例であり、調査員や対象の事案によって実施時間は様々です。
税務署の指摘に対応する
問題が発見された場合は、調査終了後に修正申告の要否を税務署と協議します。
経費の過大計上など軽微な指摘はその場で対応可能ですが、売上除外など重大な指摘では追加資料の提出を求められるケースもあります。修正申告に応じない場合、税務署が更正処分を行うことがあります。内容に仮装・隠蔽が認められると、重加算税(最大40%)が課されるため、税理士を交え慎重な対応が不可欠です。
調査結果を受ける
申告に問題がなければ是認通知書が到着すれば調査終了です。
申告に指摘事項がある場合は、修正申告書を提出し、その提出日までに追加納税が必要です。結果通知は調査後、概ね1週間~数ヶ月以内で郵送され、延滞税は納期限の翌日から起算して納付日までの期間に応じて年率2.5%~8.7%(令和6年分)で賦課されます。
税務署の調査結果に不服がある場合※は60日以内に審査請求が可能です。
専門家の助言を得た上で慎重に対応を検討しましょう。
※修正申告書を提出した場合には、本税に対する審査請求はできませんので留意が必要です。
税務調査時の必要書類
本章では、税務調査を円滑に進めるための、必要書類を詳細に解説します。
必要な書類を体系的に整理し、事前対策を万全にしましょう。
まずは、以下の表を参考に、不足がないかチェックしてください。
書類分類 | 主な内容 | 準備のポイント |
申告関係 | 法人税/所得税申告書・消費税申告書・源泉所得税納付書 | 調査期間分を時系列でファイル化する。 |
帳簿類 | 総勘定元帳・現金出納帳・売掛帳/買掛帳・固定資産台帳 | 電子データは検索機能を事前にテストしておく。 |
証憑書類 | 請求書・領収書・契約書・納品書・レジ締めデータ(飲食業) | 業種特有の書類は別途ボックスに分類する。 |
預金関係 | 調査期間分の通帳コピー・当座勘定照合表・融資契約書 | 通帳のコピーは表紙から最終頁まで完備しておく。 |
給与関係 | 給与台帳・源泉徴収簿・扶養控除申告書・社会保険料算定基礎届 | 従業員別にファイル分けする。 |
資産関係 | 賃貸契約書・保険証券・リース契約書・減価償却計算書 | 資産ごとに紐付けできるよう索引作成。 |
電子データ | 会計ソフトのバックアップ・クラウドストレージのアクセス情報 | USBとクラウドの両方でバックアップしておく。 |
書類は「申告内容の裏付け」「取引の実態証明」「保有資産の把握」の3機能を満たすように整理しましょう。電子データは印刷済みコピーと検索可能な状態の両方を準備し、調査官の要求に即応できる体制を整えましょう。
書類準備に際しても、疑問点は調査前に解消し、安心して調査に臨める環境を整えることが大切です。
指摘されやすいポイント(売上・会計・納税関連)
税務調査で特に注目される「売上計上」「会計処理」「納税額」の3分野におけるリスク要因を解説します。調査官が重点チェックする項目を理解し、適切な対策を講じましょう。
売上の計上漏れ
現金取引の多い飲食業や小売業は、売上計上漏れが特に指摘されやすい業種です。
特にレジ締めデータと帳簿の不一致、未入金の請求書、個人口座への売上振込などが発覚しやすく、取引先が提出している法定調書との突合で矛盾が判明することがあります。 調査官は預金通帳の入出金を詳細に確認し、不明な現金収支については説明を求められます。計上漏れが悪質と判断されると、最大40%の重加算税が課されます。
会計処理のミス
経費の二重計上や私的支出の混入は、税務調査で間違いを指摘される代表的な例です。
例として、役員貸付金の利息未計上、接待交際費の根拠資料不足、固定資産の減価償却誤りが挙げられます。
納税額の過少申告
申告所得税額が実際より10%以上少ないと、原則として過少申告加算税(10~15%)が課される可能性があります。無申告でなければ、税務調査の調査通知前に自主的に修正申告すれば、原則として加算税は課されません。また、調査通知後でも、調査着手前に自主的に修正すれば、加算税が軽減(通常より5%引下げ)されます。
指摘時の対応方法
税務調査で指摘事項が発生した場合、最初にすべきは調査官の指摘内容を正確に理解することです。税理士と連携して指摘内容の妥当性を検証し、事実誤認がないか帳簿や請求書で裏付けを確認します。誤りを認める場合は速やかに修正申告書を作成し、追加納税と延滞税・過少申告加算税の支払い手続きを進めましょう。
指摘内容に納得できない場合は、税務署との協議や、異議申立て・審査請求といった正式な不服申立て手続きを検討することもできます。この場合、税理士が税法に基づく反論資料を作成し、更正処分の回避を目指します。特に重加算税が懸念される悪質なケースでは、税務訴訟に発展する前に専門家の助言が不可欠です。 対応のポイントは以下の3点です。
- 調査官との対話記録の作成
- 修正内容の書面化
- 納期限の厳守
過去5年分の取引を遡及調査されるリスクを避けるため、日頃から電子帳簿と領収書の紐付けを徹底することが最善の予防策です。
未然に防ぐための経理・帳簿管理の対策
税務調査リスクを最小限に抑えるには、日常的な経理体制の構築と帳簿管理の徹底が不可欠です。適切な仕組みを整えることで、申告内容の正確性を担保し、調査官からの指摘を未然に防ぎます。
経理体制の整備
中小企業や個人事業主が最初に取り組むべきは、明確な経理ルールの策定です。請求書の発行基準や経費精算のフローを文書化し、全従業員が同じ基準で処理できる環境を整えます。特に複数人で経理業務を分担する場合、承認フローの設定や定期的な内部チェックが欠かせません。税理士と連携して月次決算を導入し、毎月の売上と経費をリアルタイムで把握する仕組みを構築します。
クラウド会計ソフトを活用すれば、銀行口座やクレジットカードとの自動連携により、入力ミスを大幅に削減できます。
帳簿管理の重要性
帳簿管理のポイントは「取引の証跡を残す」です。
領収書は日付順にスキャンして電子化し、クラウドストレージで7年間保管します。現金取引が多い事業者は、毎日終業時にレジ締めデータと現金残高を照合し、差異が一定の許容範囲を超えないように管理します。
デジタル帳簿の場合、改ざん防止機能付きの会計ソフトを使用し、修正履歴を残すことが法的な証拠力向上につながります。特に消費税の課税事業者は、仕入税額控除のためにもインボイス制度に対応した帳簿フォーマットの採用が必須です。
税務調査リスク低減
リスク低減のためには、「税務署の視点で帳簿を点検する」ことがポイントとなるでしょう。四半期ごとに売上総利益率や経費比率を業界平均と比較し、大きな乖離がある場合は原因を分析します。
税理士に定期的な自主監査を依頼するなど、源泉所得税の計算誤りや減価償却費の計上ミスを早期発見するように心掛けましょう。過去の修正申告内容を整理し、同じ過ちを繰り返さない防止策を構築しましょう。
特に調査官が注目する預金通帳の入出金記録は、帳簿との整合性を細かくチェックし、不自然な不一致が生じないように管理してください。
税務調査に強い会社や税理士の特徴と選び方
税務調査対応の専門性が高い税理士事務所や会社を選ぶには、実務実績・専門知識・対応力の3要素が欠かせません。
調査経験・実績の豊富さ
税務調査に強い税理士を見極める際は、調査対応の実績とその中身を確認しましょう。
単に税務調査に立ち会ったことがあるというだけでは不十分で、どのような業種の、どの程度の規模の調査に、どれだけ深く関与してきたかが判断の分かれ目です。
調査経験の豊富さを確認するには、事務所のホームページを確認するのが有効です。また、面談や問い合わせ時に、過去に対応した税務調査の件数や内容について具体的に質問し、曖昧な回答しか得られない場合は再検討すべきです。
税法知識の深さ
最新の税制改正や判例に精通していることは、税務調査対応力を見極めるうえで重要なポイントです。特に、消費税インボイス制度や電子帳簿保存法といった近年の制度変更に対する理解が不十分だと、思わぬ指摘につながる可能性があります。
税法の条文や通達を根拠に、調査官の指摘内容を正確に分析し、論理的に説明・反論できることで、不要な追徴課税を未然に防げられるかもしれません。
修正申告の対応力
指摘事項への反論から書類作成まで、一貫した修正対応ができる能力は欠かせません。
追加納税が必要な場合でも、適切な分割納付の交渉ができるかどうかがポイントです。
税務調査に関するよくある質問
税務調査においては、事前通知の有無や対象となる財産の扱いなど、細かな疑問が多くあります。特に「突然の調査はあるのか?」「法人と個人での違いは?」といった実務的な疑問が寄せられます。最後に、そのようなよくある質問について、わかりやすく解説します。
税務調査の事前通知と突然の調査はどういう違い?
税務調査には事前に通知が来る場合と、いきなり現れるケースがあります。
この違いを理解するために、調査の特徴を以下の表にまとめました。
調査の種類 | 説明 | 詳細 |
任意調査 | 納税者の同意を得て実施される調査 | 通常は税務署から電話や書面で事前通知が届き、実地調査の日程が調整される。拒否することもできるが、対応しないと再調査や強制調査の対象になる場合がある。 |
強制調査 | 裁判所の令状をもとに実施される調査 | 悪質な脱税が疑われる企業や個人が対象。突然の訪問(無予告)で始まり、調査官はパソコンや通帳などを押収することもあり、拒否はできない。 |
任意調査では、事前通知により納税者と税務署が連絡を取り合って日程調整が行われます。一方で、強制調査は国税局査察部(通称マルサ)が担当となり、突然の訪問が特徴です。どちらの調査も、調査官が調べる目的は正確な申告かどうかという点にあります。
調査の形式によって、準備の有無や対応方法が大きく異なります。
会社と個人の財産・金融資産の扱いの違いは?
法人と個人では、税務署が見る資産の範囲や確認の仕方が異なります。
財産の扱いについて、以下の表をご覧下さい。
項目 | 会社(法人) | 個人事業主・個人 |
対象となる財産 | 会社名義の資産(不動産、設備、車両など) | 個人名義の財産(預金、不動産、車など) |
金融資産の確認方法 | 会社の通帳、元帳、会計帳簿を中心に確認される。 | 本人名義の通帳、証券口座、資産管理状況が確認される。 |
所得との関係 | 会社の売上や費用、役員報酬などが焦点になる。 | 所得税の申告内容や、生活費との整合性が調査される。 |
まとめ:税務調査は税理士に立ち合いを
国税庁による税務調査には任意調査と強制調査があり、売上や経費の内容、帳簿や会計資料をもとに、適正な納税がなされているかが厳しく確認されます。
また、調査は事前通知を伴うケースが一般的ですが、悪質な脱税が疑われる場合には突然の強制調査が行われることもあります。調査当日は、調査官によるヒアリングや帳簿・通帳・請求書の照合、指摘事項への対応など、緊張感のある流れとなります。
税務調査で指摘事項があった場合、速やかな修正申告や追加納税、税理士との連携が不可欠です。さらに、普段から経理体制を整備し、帳簿管理や証憑書類の保存を徹底することで、調査リスクを大幅に低減できるかもしれません。法人と個人事業主では調査の深さや対象資産、必要書類が異なるため、それぞれの特徴を理解したうえで対策を講じることが大切です。
しかし、実際に税務調査を受けるにおいて、「どこまで準備すれば良いのか」「指摘事項にどう対応すれば良いのか」といった悩みを抱える方が多いのではないでしょうか。
適切に税務調査対策を進めていくにしても、税務調査対策サポートを行える税理士事務所の存在は貴重です。
税理士法人日本経営は、法人・個人問わず、あらゆる税務調査の悩みにワンストップで対応できるメリットがあります。
ぜひ以下のリンクから、税理士法人日本経営のサービス詳細をご確認ください。
税理士法人日本経営のサービス詳細はこちらから。
本稿の監修
川村 誓志郎(かわむら せいしろう)
税理士法人日本経営 トータルソリューション事業部 次長
2017年税理士登録、同年税理士法人日本経営に入社。
前職においては大阪国税局の査察部を含む各部門において28年間勤務し、主として資産課税部門を歴任。2017年より現職に従事し、現在に至る。
当法人では無料相談を行っております。
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税理士法人日本経営
本稿は掲載時点の情報に基づき、一般的なコメントを述べたものです。実際の税務・経営の判断は個別具体的に検討する必要がありますので、税理士など専門家にご相談の上ご判断ください。本稿をもとに意思決定され、直接又は間接に損害を蒙られたとしても、一切の責任は負いかねます。
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事業形態
事業・国際税務
- 種別 トピックス